第32章 indifference
レイは溢れる涙を袖で拭った。
真剣な眼光で、意を決したように顔を上げる。
そして、ハッと息を飲んだ。
ゾッとするほど美しいと思ったからかもしれない。
そこにあるのは、
充血した白目に、宝石のような碧眼の瞳。
濡れた睫毛に、虚ろに開いた揺れる瞳孔。
碧眼は潤んでいて、今にも雫が零れ落ちそうだと思った。
「…悟……目、閉じて……」
レイがそう言って指を近づけると、
五条はゆっくりと目を瞑った。
それと同時に流れる、一粒のそれ…
それを、レイは指で拭った。
五条は目を開き、真顔のまま言った。
「今度は… レイが目閉じてよ」
レイは目を瞑る。
その瞬間に、いくつの雫が頬を伝ったかは分からない。
しかし、何度も柔らかいものが頬に触れた。
何度も、何度も、何度も……
「……しょっぱいね…」
その声と同時に目を開けると、五条の顔は目と鼻の先にあった。
青青とした眼光が真っ直ぐと突き刺さっている。
手はレイの頬を滑っている。
「涙の味、初めて知った」
「・・・」
さっきから頭の中がぐちゃぐちゃで、思考が追いつかず、何も言えなくなった。
「は……ダメだな…
僕このままだと…絶対言っちゃダメなことをいっぱい言っちゃいそうな気がする…」
五条が自嘲気味に笑った。
「……なに…それ…」
「いやー…やっぱり…言えないな…」
ジッとレイの顔を見つめ、頬に指を滑らせながら、顔を歪める五条。
「…そこまで言われると、気になるじゃん…」
「ははっ…だよね……
じゃー…、1つだけ……」
そう言って五条は充血した碧眼を細め、真剣な顔をした。
「レイは初めから不運なんだよ。」
チクリと胸が傷んだ。
そんなに酷いことを言われるとは思っていなかったから、純粋に傷ついて、また目頭が熱くなった。
「なぜなら僕に、本気で好かれちゃってるからね…
どこへ行こうと、逃げられるわけないんだ。」
だって、僕は、レイの空なんだから…
ホントはもっと言いたいことがたくさんある。
でもきっとレイを傷つけるからさ…
言わないでおくわ…