第32章 indifference
レイは震える拳を上げた。
そしてそこへ、呪力を溜め込む。
隣に座っている五条は、まだ笑みを浮かべているように見える。
レイは意を決したように深呼吸をし、思い切り拳を突き出した。
そして目を見開く。
「……なんで…跳ね返さないの……」
あえて、スレスレの0.5cm程のところで止めたのだ。
五条のほぼオートで発動するはずの無下限の能力によって、どうせ触れられないだろうと思ったからだ。
それなのに…
「だからさ、言ったじゃん。
自分で自分に一番キレてるって。」
五条は顔に拳を突き出されたまま、静かに言った。
「…誰も僕のこと責めてくれないんだ。
皆、慰めるような言葉か褒めるような言葉しか言わなくてさ。
あのクマでさえだよ…
怒ったり責めたりしてくれんの、レイしかいねぇじゃん」
レイは唇を噛み締め、突き出していた拳で触れる距離にあったその目隠しをそっと下ろした。
「…っ!!!」
レイの見開かれた目が、じわりと滲んでくる。
「な…っでよ……悟……っ」
泣き腫らしたような赤い五条の両目が、
自分の視界の中でどんどん歪んでいき、そしてたちまちボヤけて見えなくなる。
シュルリと掴み取った目隠しはひんやりと濡れているのがわかり、ギュッと握りしめた。
「なん…なの……」
自分で自分を許せないのは私だ。
自分のことばっかりで、悟の気持ちは考えてなかった。
受け入れたくなくて、逃げて、
責めるようなこと言って、
追いかけている間もずっと…悟は泣いていた。
泣きながら私を追いかけていた。
どういう思いでかなんて、
想像しなくても、わかる。
きっと私にしか分からない。
今だけじゃなくて、
この10年間も、きっと何度も泣いていたかもしれない。
何度も葛藤したり後悔したり自分を責めたりして苦しんでいただろう。
なら……私は私に対するせめてもの贖罪として、
きちんとその顔を焼き付ける。
私自身を責めるために。
そして
もう二度と、悟にそんな顔はさせないように。