第32章 indifference
"………殺せばいいじゃん。
傑を殺した時みたいに……"
なんてことを言ったんだろう…私は…
よろよろとベンチに座ると、隣に五条も腰掛けた。
先に口を開いたのは五条だった。
「こんなこと言うのも、あれだけどさ…
言っていい?」
「……なに?」
レイは遠くの空をボーッと見つめた。
もうかなり暗い。
薄らと星が出始めている。
「あのね…僕ね……
やっぱ… レイが生きててくれて、
泣くほど嬉しい」
「……泣いてないじゃん…」
「…泣いてるよ……
目隠しで見えてないだけじゃん」
レイは五条の方を向くと、目隠しに手を伸ばした。
けれど、それを外した先を想像すると、なんとなく手は宙を彷徨い、そしてまた引っ込めてしまった。
「あれぇ?…外さないの?」
「・・・目隠しなんて…ズルいよ…」
五条がどんな表情なのかがわからない。
けれど、声色はとても静かで全く力が篭ってない。
「僕のこと、殴っていいよ」
「は?」
「傑を殺したこと怒ってんならさ、好きなだけ僕のこと痛めつけていいよって言ってんの。気が済むまでボコりなよ。」
レイは目を見開いたまま五条を見る。
目が合っているのかすら分からないが、合っている気がした。
しかも、笑みを浮かべているような気さえする。
「だから私、別に怒ってないって…」
「いや分かるんだ。それに、怒るのは当然だ。僕だって自分で自分にめちゃめちゃキレてる。」
「……なんでそんなに面白そうに言うの?」
そういう所が気に食わない。
何も笑えないタイミングで笑ってたりするところ。
レイは眉間に皺を寄せたまま拳を震わせる。
ここで殴ったりしたら…どうなるだろう?
私はやっぱり、傑を殺したことを恨んでいるんだろうか?
「……早くやって、レイ。
僕が代わりにやってやりたいのは山々なんだけど、自分に対してとか上手くできないからさ〜。レイがやってくんないと。」