第32章 indifference
「ごっ、ごめん…私…ちょっと冷静になる…
頭冷やして…くる……」
「っ?!おいっ…!」
レイはバタバタと外へ出てってしまった。
五条とクマだけになった部屋で、なんとも言えない空気が流れる。
「おい、目隠し野郎。
追わなくていいんか?」
「………追うよ。
だってこのマンションオートロックだもん」
五条が寂しげに笑うと、クマも少しだけ笑った。
「じゃーおいらはシチサンの様子見に行ってくるわ」
「あんま驚かすなよ。きっと腰抜かしちゃうよ」
レイは、薄暗くなりつつある空の下をひたすら歩いた。
行くあてもなく、ただとぼとぼ歩いていると、次第に街灯がついて明るくなり、いつの間にか導かれるように小さな公園に来ていた。
ベンチに腰掛けて上を見上げる。
まだ、月も星も出ていない。
「……よかった…」
つい、そう呟いてしまった。
出ていたら…
初めて彼とキスをした…あの時のこと…
思い出して、頭がおかしくなってしまいそうだから…
ふと見つけた木の枝で地面をいじくる。
forever
それだけ書いて、その文字をジッと見下ろした。
本当に大好きなの…今でも…
彼の全てを…
"永遠"に愛してるの…
たとえこの思いが呪いでも…
神様…どうかわかってください。
また彼に会わせてください…
「どうか…届いて…」
文字は風で僅かにかき消され、どこかへ飛んでいった。
カランっと枝を落とした音が響く。
あのルビー…やっぱり最期まで使わなければよかったかもしれない。
そうすれば、
死ねたのに…
天国か地獄で…
あなたに会えたかもしれないのに…
「…なんで……私って…ほんっとにバカ……」
後悔ばかりが襲う。
もっと、ずっとずっと前から…
あの時、ああしとけば良かった
あの時も、こう言えばよかった
もっとあなたを
理解できていれば…
「ごめんなさい……」
悲しいとか、悔しいとか、淋しいとか、
そんな単純な言葉で言い表せないほどの感情。
喪失感、絶望感、そんなものでもない。
ただただ今は…
あなたに会いたい。