第31章 usurp 【番外編】
その夏油の表情が氷のように冷たい気がして、なんとなくレイは後退りする。
しかし、
ドンッ……
壁に背をついてしまい、夏油が前かがみにレイの顔の両隣に手を着いた。
「…行き止まりだよ?レイちゃん?」
か、か、か、か、…
壁ドンじゃん…!!
人生初のっ…!!
などと呑気に考えている余裕が、今のレイにはなかった。
火照る顔を両手ですぐさま隠す。
が、その両手を乱暴に剥がされ、ペタリと壁に抑えられた。
「……っ……げ…と…くん?」
夏油は睨んでいた表情をようやく緩め、口角を上げた。
「他の男にまでシッポを振っているのは感心しないなぁ…」
「…?……え?…」
言っている意味がよく分からなくて混乱する。
押さえ付けられている両手が震えてきた。
そもそも……
「っ…あのっ…夏油くん?…ち、近いよ…」
顔が近すぎて心臓が爆発寸前だ。
自分が目の前の男を好きだということを、分かっててやっているのだろうか?
「そう…近いかな?離れてほしい?」
「えっ……」
思いもよらないことを聞かれてしまい、言葉に詰まってしまった。
すると夏油はフッと笑った。
「そういうところも…隙だらけなんだよな。
わかるかい?」
「・・・」
「そうやって隙ばかり見せて、煽ってばかりいると…大変なことになるよ?あまり男を舐めない方がいい。」
「どっ…どういう……
別にそんなつもりじゃ」
「全く……君は私を心配させる天才だね…
いいかい、また忠告はしたからね?
3度目はないと思えよ…」
私だって男なんだから…
と耳元で囁かれる。
一気に力が抜け、ヘナヘナと座り込みそうになるのを夏油が支えた。