第31章 usurp 【番外編】
「こらこら…顔を見せてよレイ」
「うぅー…やだぁ……」
「はぁ?わけわかんないな…」
ズババッ!
夏油が勢いよく布団を引き剥がした。
レイは目を丸くして夏油を見る。
彼は真顔のままジッと見つめている。
「おや、顔が真っ赤だね…
本当に大丈夫かい?」
徐々に顔が近付いてきてレイはギュッと目を瞑った。
すると、額に何かが触れた。
恐る恐る目を開けると、彼の顔が目と鼻の先にあり、息を飲む。
彼の額と自分の額がくっついているのだと理解するのに時間がかかってしまった。
ゆっくりと離れていったかと思えば、レイを見下ろしながら夏油が小さく笑った。
「ふ…あまり隙を見せないでくれよ。
私だって、男なんだから…」
レイは急いでまた布団を引き寄せて口元まで引っ張った。
「な…隙って…それは…夏油くんが作ってくるんじゃ…」
そうだよ、私じゃなくて…
私は何にもしてないのに…夏油くんが…
そう心の中で、必死に乱れた心を鎮めようとする。
すると、夏油が笑みを浮かべたままレイの前髪をサラリとどかした。かと思えば、耳元に口を寄せて囁いた。
「男は単純なんだよ…
いいかい?…忠告はしたからね…」
甘い吐息と共に鼓膜を揺らしたその囁きで、レイはくらりと目眩がしてしまった。
これは絶対に風邪のせいでも体調のせいでもない。
全部あなたのせいだ。
どれもこれも全部無自覚でやっているのだとしたら、相当ヤバい人だと思った。
逆にわざとだったとしても相当ヤバい人だ。
それとも…
この人に、出会った時から惚れている私のほうがおかしいのだろうか?
レイは、いつもの優しい笑みを浮かべている夏油をチラと見てから、もう限界だと言わんばかりにまた布団を被った。