第31章 usurp 【番外編】
すると今度は夏油が横からスマホを取り上げた。
「私のオススメはこれなんだ、見てくれ…
ぐっ、ふ…ぅっ…くくく…」
そうして再生されたのは、犬が馬のシッポにパシパシ叩かれているのに、愛らしい顔のまま無反応という動画だった。
「…かわいいねぇ」
「違うんだレイ。注目すべきは隣にいるこっちの犬2匹だよ。くくく!はっはは…笑えるだろう?このシュールな表情がっ…」
「おい傑っ!…そ、それ以上はやめろっ!…はっ、ぐふ…」
レイは正直何がここまで笑えるのか、全く分からなかった。
ただこの2人でいるだけでなんでも最高に面白くなってしまうのかもしれないと思った。
「あ、そうだ、言いに来たことがあったんだった。」
動画のことに巻き込まれてすっかり用を忘れていたことを思い出した。
「あのね、夏油くん、今夜 硝子と新宿でご飯食べに行ってくるね」
夏油は瞬時に先程までの馬鹿騒ぎな笑みを消し、優しげに目を細めた。
「そう。楽しんできてね。何時頃?なんて店だい?」
「えっとね、19時頃に東口近くにある△△ラウンジBARってお店だよ。」
「…聞いたことないな……
レイは酒を飲んだらダメだよ?」
「わかってるわかってる!私は夏油くんに言われてる通り一滴も酒は飲まないし、煙草だってやらないよ〜」
朗らかに笑うレイに夏油もニッコリと笑う。
「あまり遅くならないうちに帰っておいでよ。無事に着いたら連絡して。あと帰る時も。」
「うんっ!わかった!!」
五条はポカンとした表情でやり取りを見つめていた。
レイが踵を返した途端、夏油が瞬時に自分のスマホを取り出した。