第30章 reunion
「…それじゃダメなんだ。俺は呪術師の道を選んだんだから」
「なぜ、選んだ?」
クマは今まで、誰にも呪術師を強要したことも勧めたことすらもない。
七海にも伊地知にも、どちらかというと好きに生きるように言ってきた。
単純にそれは、他人に命を賭ける、またはその逆を経験し続けていられるほど、人間は強くはいられないからだ。
「キッカケは成り行き。寂しがりなんでね。いっぱい人を助けて、俺が死ぬ時、大勢に看取って欲しいんだ。」
虎杖は少し明るく言った。
「俺が死を考えるのはさ、死ぬためじゃない。
生きるためなんだ。
どのみち死ななきゃなんねーならさ、
俺は納得して死にたいんだ…」
"お前は強いから人を助けろ。
大勢に囲まれて死ね"
祖父の遺言が脳裏に反芻する。
「俺はさ…爺ちゃんに呪いかけられてんだ」
「ジジイに何言われたか知らんが、逆にてめぇがジジイを呪うような生き方だけはすんなよ」
その言葉に、虎杖は目を見開いた。
高専に入学する間際、夜蛾が言っていた言葉を思い出す。
"死に際の心の有り様を想像することは難しい。だがこれだけは断言できる。今のままだと、大好きな祖父を呪うことになるかもしれんぞ。呪術師に悔いのない死などない"
クマはいちごミルクを吸いながら横目で虎杖を見た。
虎杖はどこか切なそうな笑みを浮かべている。
「…お前も強くなるしかねぇな…
よく生きることは、よく死ぬことでもある。
わかるか?一生懸命に生きたものは、納得して死を受け容れることが出来るっつー意味だ。」
虎杖はハッとしたようにクマを見る。
クマはいちごミルクを置いて、んんーっと伸びをした。
「…生まれるということはな、
死ぬということの "約束" なんだ。」
「……やく…そく…」
クマは何事も無かったかのようにテーブルの上のDVDをバラバラと漁り出した。
「……これを観て強くなんのか?」
「あ…さぁ?五条先生がそう言うから〜…」
「んなことより、なんかおもしれ〜話しよーぜ。宿儺じゃねぇが、おいらも長い間、けっこー退屈してたんだよなぁ〜」
その言葉に、虎杖は一瞬ポカンとした表情を見せたが、すぐに笑顔になった。
「するする〜!
クマはなんか面白い話ないの〜?!」
ついている映画の音量は下げられ、ただのBGMになっていた。