第3章 comrade
「わざわざ自分は正論嫌いだと主張するために昨夜部屋に押しかけてきた訳では無いんだろう?」
「・・・」
五条の眉がピクリと動いたのを夏油は見逃さなかった。
至って冷静な態度で続ける。
「私とレイの邪魔をしに来たんだよな、昨夜は。」
ググっと夏油が水を飲み干し、暫しの沈黙が流れたあと、五条がニコニコと笑いながら言った。
「んー?珍しく被害妄想ってやつかな傑くんー?」
「私には悟の考えていることは全部分かるのさ」
その言葉に、今朝レイと新幹線の中でした会話が脳裏に反芻された。
"俺にも傑の考えていることがよく分からねぇときがある。ていうか、いつもそう。まぁ結局は自分以外なんて他人なんだから分かりっこないんだけど。"
"そう、だね。全部知りたくても、それは叶わないよね。"
「狸寝入りが上手なんだね、傑くん?…初めて知ったよ」
「そっちだって…人の恋人にちょっかい出すとは、そこまで度胸があるなんて初めて知ったよ、悟くん?」
互いのこんなに不気味な笑みを突き合わせるのは初めてだ。
なんとも言えない空気が流れる。
「…手を握っただけで?」
「じゃあなんだ、セクハラか?君が言うところの"一歩間違えれば犯罪"というやつか?」
暫く沈黙が流れ、先に口を開いたのは五条だった。
「それで?じゃあどうする?」
数秒間見つめあった後、夏油は僅かに口角を上げ、静かに言った。
「…殺し合おうか」
それでも眉一つ動かさない五条を見やりながらポケットから何かを取り出す夏油。
稲妻型のそれを耳に当て、ブチッと音が鳴った。