第29章 intention
「ふっ…ふふ……
君よりはあるはずだけどね…あの頃みたいに…」
あの頃の微笑みで笑い
血を吐いている夏油をまっすぐ見つめ、眉を顰める。
くそ…
最期にそんなふうに笑うな…
俺はお前がいない世界じゃ、
心から笑えねぇよ?
「…俺、傑が思ってる以上に寂しがりなんだよ。
だからさ、先に着いたら待っててよ、"天国"で。」
「…天国?……ふはは…
やはり君は相変わらず冗談のセンスがないな…
こういう時は、きちんと、"地獄"と言えよ。」
「地獄なんか俺が嫌なんだよっ。
だからお前は天国で待ってろ!いいな?」
地獄なんて、
そんなもんあるって誰が決めたんだよ。
誰も知らねーし見たことねーだろ。
「それに……天国に行かねぇと…
レイに会えないぞ…
2人で待ってろ。約束な。」
有無を言わせぬ、あの頃の口調で言う五条に、夏油は諦めたように小さく笑う。
しかしその諦めは、天国になんか行けるわけないだろというような意味を醸し出していた。
夏油は寂しげにため息を吐いたあと、耳のクリスタルを取り、差し出す。
「……これ…持っててくれ。」
「は?なんで。これはお前の、」
「これまで地獄に道連れにしたくない。
いいから持っててくれ…」
真剣にそう言われ、それを受け取ると、
また夏油は笑みを零した。
「……傑はずっと…俺の親友だよ…
たった1人のね…」
夏油は一瞬唖然とした表情になったかと思えばまた笑った。
「…はっ…最期くらい、呪いの言葉を吐けよ……
…でも…まぁ…そうだな……
私も…君に出会えてよかったよ…」
最期の最後まで、
結局そうして優しい顔で笑うのか。
「……ありがとう悟。
これでさよならだ。」
なにがあっても負けるなよ。
君は最強なんだから。
夏油は最期に、
小さくそう呟いた。
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