第3章 comrade
「もちろん私も傑も、皆そうだと思うの。人は1人では生きられないし、どんな天才でも1人でできることは限られてる。仲間って、自分のできないことを助けてくれる人たちだと思うし、あと自分にしかできないことで助けてあげられる人たちのことだと思うから。」
目を見開いたままレイに視線を移すと、彼女はにっこり笑いながら肩に寄りかかっている夏油の手を握っていた。
「だから悟もさ、弱い自分の部分を私たちにはさらけ出しなよ。なんかいつもそうやって馬鹿やってたりして、無理してるように見えるよ?
どんなに脆くて人間らしい部分でも、優しく受け止める人が本当の仲間であって、友達でしょ?あ、これ私たちのことね?」
ケラケラと笑うレイに、つい言葉が洩れた。
「… レイはどうなんだよ。泣いてるところとか、見たことねぇけど…」
その言葉に、どこか寂しげな表情になるのが見て取れて、五条の中に妙な緊張感が走る。
「虹を見たければ、ちょっとやそっとの雨は我慢しなくちゃって誰かが言ってたよ?」
「…は?」
「だから泣きたい時は一人で泣いて、自分の傷は自分で治してきた。でも…そっか。…涙が弱さの象徴なら…誰かに慰めてもらうのも悪くはないよね…」
そう言って俯いた時、もう片方の手の上に五条の手が重なった。
目を丸くして前を見ると、サングラス越しにまっすぐとこちらを見つめる碧眼があるのが分かる。
「レイを泣かせるまでぜってぇ死なねぇようにするわ」
「…なに…それ……てか…悟が死ぬわけないじゃん。
それから…傑だって。」
もう片手は眠っている夏油の手を握りしめている。
だからなんとなく、五条の手は握り返せないでいた。
だから代わりに真剣な目で見つめ返す。
「はっ。だな。」
そう言って五条は何事も無かったかのように手を離し、また何か菓子を取り出した。
ジッと耳を澄ますと、隣の夏油の寝息が聞こえる。
斜め前の硝子の寝息は、隣の五条のバリバリという菓子の音にかき消されていた。