第26章 distortion
「わぁ〜すごーい!!
インスタに載せなきゃじゃん〜これぇ!」
パシャ
パシャ
「早くしてよ菜々子ぉ〜
食べたい〜!」
目の前のホイップ盛り盛りのパンケーキに、
菜々子と美々子は目を輝かせている。
「ふふ…女の子はこういったスイーツが本当に好きなようだね…他にも何か気になるものがあれば頼むといいよ。」
夏油は静かにホットコーヒーに口をつけた。
店員が一緒に持ってきた、瓶に入った大量の角砂糖をボーッと見つめる。
それを一つだけコーヒーに落とし、スプーンでぐるぐるとかき混ぜた。
「ん〜!おいしい〜!!」
「うん!甘さ控えめのクリームいい感じ〜」
夏油はその言葉に苦笑いする。
甘さ控えめ?
そうは思わなかったが…
あの頃とは少し改良したのかな…
とにかくひどく甘すぎた……気がした。あれは。
「それにしても夏油様、よくこんなお店知っていたね?
こないだ連れて行ってくれたパフェの美味しいカフェもとても良かったし〜」
菜々子の言葉に、優しく微笑む。
「はい、夏油様!あ〜ん!」
フォークに刺さったそれを差し出され、口を開ける。
"ほら、傑。あ〜んだよ"
あの姿を思い浮かべてしまい、
甘ったるいその記憶を甘ったるいパンケーキと共に喉の奥へと流し込む。
そしてたちまち眉をひそめる。
「……ぅ……
やはりあの頃と何も変わってないじゃないか…
甘すぎる…」
そう呟いて、コーヒーに口をつける。
そしてまたみるみる眉間に皺を刻む。
「…角砂糖1つでこんなに甘いとは…
よくあんなに………すみません店員さん?」
瞬時に笑顔を作って、たまたま傍を通りかかった店員を呼び止める。
「アイスコーヒーを1つお願いします。」
「かしこまりました!」
はーっと息を吐いてナプキンで口を拭く夏油を、
菜々子と美々子はパンケーキを食べながらポカンとした表情で見つめていた。