第26章 distortion
「ったく…野暮な年寄り共め…
あぁはなりたくないね。
ねぇ?くまポン。」
五条は自分の家のソファーの上に置いてあるテディベアの頭を撫でた。
「若人から青春を取り上げるなんて、
許されてないんだよ。
なんびとたりともね……だろ?」
テディベアはなにも答えない。
表情ひとつ変えず、ただそこに佇んでいる。
「……お〜い。
お前と喧嘩できないとか張り合いないよ〜?」
なんか言ってくれよ。
なんでもいーからさ…。
あの頃みたいに。
ガンガン僕に文句言え。
ガンガン僕に助言しろ。
ガンガン僕を指導しろ。
お前はたった1人の
僕の"師"だろ。
「ねぇ、僕、なんも間違ってないよね?」
そう言いながら、クマと共にボーッと前を見つめる。
ついていない、黒い大きなテレビ画面。
ソファーに座っているクマと自分が映っている。
ちゅーーーー
いちごミルクのストローに口をつける。
「っはー。うま。」
"青春を取り上げられることの無い現実を、君が作っていけばいいんじゃないか。高専で教鞭を取って、強く聡い若者を育て上げ、夢を現実にするんだ。"
「…僕ってさー、
グレートティーチャー五条悟になれてると思うー?
クマせんせー?」
"自分の力で変えてみろよ、悟。"
「あいつは今……
何してんだろな…」
真っ暗なテレビ画面に映る自分とクマの姿を見つめながらまたいちごミルクを吸う。
独りは寂しいよ、なんて、
そう言っておきながら、
僕は独りじゃなかった。
ずーーっとお前だけは
僕のそばにいてくれた。
だから別に寂しくなんてなくて、
だから僕はここまでやってこれた。
だから……
なぁ?くま野郎。
"俺"のこと、見ててくれてる?