第21章 residual ■
「だからね七海くん、その命はね、次の価値ある命に繋げなくちゃならない。……繋げてくれた灰原くんに、報いるためにも…」
いつか、命懸けで何かを守らなくてはならない日が、来るかもしれないから…
七海は静かに話し出した。
「……いた時はうるさいと思ってたんですよ。
ただの私のストレスでしかないと…
そう、思っていたんです」
灰原のことを言っているということは分かり、レイは黙って耳を傾けた。
「でも…いなかったらいなかったで、今度はやけに周りの音がうるさく聞こえるし、自分の呼吸音さえも、耳障りなんです…」
いつもの無機質な声色のはずなのに、やけに優しく柔らかく聞こえた。
「ストレスが減ったかと思ったら……
増えていってるんですよ…ずっと…。」
レイは、目を合わせない七海にまっすぐ向き直って笑顔で言った。
「そのストレスは、糧になる。どこまでも七海くんを強くする糧に。
だから、きっと負けない!七海くんはものすごく強くなる。私達もクマもついてる。独りじゃない。」
目を見開いた七海から、ゆっくりと涙がこぼれ落ちた。
「七海くんは…生かされた。
だから生きなきゃいけない。生きて、強くなって、次の誰かにまた命を引き継ぐ。そうやって、命は続いていくんだよ。
苦しくて、辛いこともあるけど…それが、生きてるということそのものでしょ。」
私も同じなんだ。
あの時、傑に道を教えてもらって、
生き方を教えてもらって、
だから、生かされた。
"あとは頼んだよ、七海"
七海は目を瞑った。
彼女の、強く真剣な言葉は、七海の心に暖かいものを染み込ませ、それは1滴、2滴と、小さく地面に染みを作っていった。