第21章 residual ■
レイは単独任務を終えて高専に戻った時、校舎入口の桜の木の下で、1人ぽつんと佇んでいる七海を見かけた。
ゆっくりと近づいていき、その表情を見てハッとなる。
いつもの無機質な真顔だ。
そのはずなのに、こんなに悲痛そうに見えたことは初めてだった。
花びら1つない、散り終わった桜の木を見上げている。
散り終わったというよりも、今年は全然咲かなかった。
なんとも言えない七海のその表情は、やはりあのことを思い起こさせた。
「七海くん、お疲れ様。
もう桜、なーんにも残ってないね…
って当たり前か。もう5月半ばになっちゃったし。」
七海は僅かにこちらに視線を移し、そしてまた上を見上げた。
もしも桜がまだ少しでも咲いていたら、目のやり場に困らなくて済んだだろうか?
彼がどこを見て何を考えているのか、分からないままでいられたかもしれない。
そう思いながら、レイも上を見上げた。
「来年も…七海くんはまだここにいるよね。私たち3年生はもういないけど…七海くんはきっと、来年はこの桜の木の下で、花を見上げているだろうね。」
「……どうですかね…それまで生きているかはわかりませんので。」
「生きてるよ」
強く即答するその言葉に、七海はうつむいて目を細めた。
「なぜ、ですか」
レイは、地面に視線を落としたままの七海に目を向けた。
「…七海くんは、生かされたから。」
七海はグッと拳を握りしめ、掠れた声で言った。
「…そんなこと…私は頼んでいません」
「そんなことは関係ないよ。守られる価値がある命だったから守られた。それだけが事実だよ。」
七海はハッと目を見開いてレイに視線を移した。
彼女は無表情で、なにもない木の枝を見上げている。