第20章 curse
そして、先に到着したのはクマだった。
クマは冷静沈着な態度で灰原の顔の白布を取った。
「灰原…この仔犬野郎……
毎回おいらがついていてやるわけにいかねぇっつったろ…」
レイは奥歯を噛み締めて目を逸らした。
とても勉強熱心でいつでもやる気に満ち溢れていた灰原は、クマと出会った頃からしょっちゅうクマを連れて任務へ出かけていた。
灰原の成長を見守り、そしてたくさんの想い出と様々な思いがあったであろうクマを、直視できなくなった。
そのとき、ゆっくりと夏油が入ってきた。
ハッとしてレイはみるみる顔を歪める。
無の表情で灰原を見下ろし、何度か瞬きをしながら、何も言葉を発さない。
灰原の口癖は、
"夏油さんのようになる!"
"夏油さんにいいとこ見せたい!"
だった。
常に夏油に憧れと尊敬を抱いていて、その仔犬のような可愛らしい顔で夏油を追いかけていた。
そんな彼はもういない。
夏油は表情ひとつ変えずに白布を彼の顔に戻した。
目にタオルを当てて歯を食いしばっていた七海が、奥から絞り出すように声を出した。
「なんてことはない2級呪霊の討伐任務のはずだったのにっ!…くそっ!…産土神信仰…あれは、土地神でした…1級案件だっ…!」
悔しそうに息を荒くする七海を一瞥すると、また灰原の方に視線を移してから夏油が冷静に言った。
「今はとにかく休め、七海。任務は悟が引き継いだ。」
「……もう…あの人1人でよくないですか?」
「・・・」
夏油は、俯いているレイをチラリと見てから、何も言わずに部屋を出ていった。