第16章 division
「七海、おいらから見るとお前は今後、もっともっと強くなっていくはずだ。かなり伸びしろがある。だがな、お前が呪術師にやりがいを感じてねぇことも知ってる。だから無理に続ける必要はねぇよ」
「え……」
「卒業したら、やりてぇ事をやれよ。リーマンなんか向いてんじゃねぇか?そのシチサンもぴったりだ!くくくくくっ…」
「……まぁ…そうですね… 呪術界上層部の歪んだ構造かつしがらみと比較的無縁な場所に身をおけるならば、それも悪くはありません。」
天内理子の1件はやはり、五条や夏油だけでなく、七海たちにまでかなりの影響を与えた。
クマはどの者の心中もわかっていた。
「呪術師は時に、仲間に“他人のために命を懸けること”を強要しなければならねーんだ。このことに疑問を感じるのなら、お前はそっちの道へ進んだ方がいい。」
だがブラック企業でも文句は言うなよシチサン野郎。
と付け加えた。
七海はその言葉に、ハッとしたように目を見開いてクマに視線を移す。
クマは至極呑気な表情でまだ風船ガムを膨らめている。
「…っ!?」
その時、目にも止まらぬ早さで迫ってきた大型呪霊に、七海は呪具を振った。
察するにこれは2級くらいだ。
バガッ
シュンッ
ジャリンッ
クマは表情をまったく変えずに、ガムを噛みながら遠くでそれを見守っているだけ。
しかし、七海にもその行動の意味はわかってはいる。
クマが毎回いてくれるわけではない。
誰もがたった1人で単独任務を無事こなして自分の命は自分で守れるくらいに強くなってほしいとの考えだろう。
多分…。そう信じたい…。
「かなり速かったが、よく気づいたな七海。」
「…っく…あなたはっ…やはりなにもっ…しないんですねっ…!」
「おう、ほら頑張れ頑張れ」
クマとお喋りしている場合ではない。
凄まじい乱闘はなかなか蹴りがつかないので徐々に焦ってくる。