第14章 surreal
"俺もレイも、傑みたいにリアリストじゃねーってことさ。できる限り、幸福な人生を享受していたい。あるはずの青春を謳歌したい。いつ死ぬかなんて分からねーんだからさ。"
五条のこの言葉の真髄がようやく理解できてきた気がした。
「あ〜、つーか俺、
もし普通だったら将来何になれてたんだろ〜?」
缶を道すがらのゴミ箱に放り投げて独り言のようにいう五条を一瞥したあと、夏油も考える。
「……なんだろな…確かに…」
「やっぱ俳優かなぁ〜?アイドルグループのセンターもいいなぁ〜!もしくはなんでもこなしちゃう系の福山雅治みたいなっ」
五条は楽しそうにケラケラと笑いだした。
しかし、決して叶うことのない夢を諦めているようなその笑みが切なく見える。
「君は教師なんか向いてるんじゃないか?」
「はぁあ?!」
被せるように呟いてきた静かなその声に驚愕する。
そんなワードが出てくるとは思ってもみなかったので五条は冗談だと理解した。
「それっ!ふははっ!傑にしては珍しく面白い冗談じゃん!」
「……私は君と違って冗談のセンスはある方だが、これは冗談で言ってるんじゃないよ悟。」
「は?」
目を見開いて隣を見る。
夏油は歩きながら空を見上げていた。
「結局のところ君も、望んでいるのはこの世界の変革だろ。
腐敗した上層部が支配する呪術会、若者に青春を謳歌する余地のない現実…こんな世界のね。」
至極冷静に呟くその声は、空に向かって消えていく。
釣られて五条も空を見上げた。
海面に浮かんで見上げた時の空よりも薄い青。
そして霧のような雲が所々に浮かんでいる。
「青春を取り上げられることの無い現実を、君が作っていけばいいんじゃないか。高専で教鞭を取って、強く聡い若者を育て上げ、夢を現実にするんだ。」
目を見開いたまま横を向くと、いつの間にか夏油もこちらを向いていて目が合った。
「自分の力で変えてみろよ、悟。」
こんな現実が嫌なら。
夏油の切れ長の瞳の奥には、君ならできるだろ、と口にはせずとも語られているように見えた。