第12章 nihilism
「ひあ〜…なんか日焼けしそーだけど、きもちーなー」
「おいらも〜」
「いやお前けっこー重いんだけど」
五条は呪力で一瞬で膨らめた大きな浮き輪に身を預けて浮かんでいる。
その五条の腹の上にクマが仰向けで乗っている。
クマは夏油のサングラスをかけている。
それが意外と似合っているから笑ってしまった。
「そーいや、空って、海が反射してるから青いんだったっけ…」
そう誰かが昔言っていた気がする。
サングラス越しに見える空はどこまでも広くて
その下をぷかぷかと浮遊しているこの状態が、なんとも癒されると思った。
「水遊びなんかしてガキみてぇにはしゃいでるより、こーしてる方が断然いいよな」
「お前が言うセリフかよ」
「ねー、あいつらいつまでああして浮かんでるつもりなの」
「はは…あのまま流されてどっか行っちゃいそーだね」
硝子とレイがそう言った瞬間、
背後から水鉄砲のような大きな水しぶきが五条を目がけて飛んで行った。
その飛沫が盛大に五条の顔にかかった。
驚いて振り向くと、不敵な笑みを浮かべている冥冥と、その隣で笑顔で拍手をしている憂憂がいる。
「っぶぁ!!!くっそ……冥さんの仕業だな!
反則だろ!呪力使うなんて!!」
「てめぇも呪力使って浮き輪膨らませてたじゃねーかよ」
「・・・」
五条は冥冥と憂憂の方向を睨みながらズレたサングラスを戻した。
全員大笑いしているのが視界に入るが、無視してまた浮き輪に身を預ける。
「レイ、向こうへ行かないか?」
夏油が指さす向こうには、遠くの方でぷかぷかしている五条とクマがいる。
「うん!行こ!」
笑顔で彼の手を握り、深くまで歩を進めていった。
水面が自分の胸元まで来た時、初めて気付いた。
こんなに深いところまで悟たちは来ていたのかと。
透き通っている綺麗な水中に、自分の足と夏油の足が見える。
暑い日差しに打たれながらも、冷たい水が心地よくて、そして隣で握ってくれている愛しい人の手が暖かくて、本当に幸せだと思った。