第12章 nihilism
ずんずん進んでいくと、首元まで到達しそうで歩みを止めた。
「ね、待って傑。私これ以上は行けないよ」
「そういえば、レイは泳げるの?」
「わかんない。泳いだことないから」
「じゃー練習しよう」
「えっ?」
突然抱えあげられて、ぐわんと体が浮く。
急いで夏油の首にしがみついた。
そのままどんどん進んでいくので、不安になってくる。
「え……ちょっと…突然離したりしないでよ?」
「はははは、信用されてないな」
水面が自分の肩あたりに到達してしまい、しがみついているだけで精一杯になってしまった。
「やっぱり離していい?」
「なっ!ダメ!!!」
くくくくと悪戯っぽく笑っている夏油の首にさらにグッとしがみつくと、顔がものすごく近くなった。
弧を描く優しい目と視線が交わった瞬間、やっぱりキスを落とされた。
それを期待していた自分にちょっと恥ずかしくなりながらも、何度も角度を変えて濃密な口付けに応える。
そのまま、まだ進んでいることには気付かずに。
「おい、見ろよ。あそこにいんの傑とレイじゃね」
クマの一声に、五条は少しだけ頭を浮かせる。
「はぁ?どこー?」
「あれだ。あの頭。」
そう言われて視線を走らせる。
向こうに見えるのは、首から上だけ出ている2人だった。
しかもずーっとキスをしているものだから呆れ顔になる。
「っは、なにしてんだか、あいつら」
「溺れ死にそうだな」
クマは心底面白そうに笑っている。
五条は、なんとも幸せそうな2人に目を細めたあと、また上体を戻して寝そべった。
サングラス越しなのに、果てしない空の青さが澄み切っているのがわかる。
このままずっと、六眼なんか使わずに空を見つめていられたら……