第11章 throbbing
「んー…花火が上がったタイミングがいいな…」
後ろの背景を気にしているらしい。
目の前でスマホの角度を整えている五条は真剣そのものの表情で目を見開いている。
「…え、なにしてんの、2人とも。
ここはチューするとこっしょ。」
「っは?!」
冷静な声でさぞ当たり前かのように言われ、
一瞬幻聴かと思ってしまった。
バンバンバンバン!!!!
突然後ろで花火が鳴り出したのがわかった。
それも一瞬の事だった。
「あぁっ!!来た来た!おい早くしろ!!」
「っ?!」
声を出せなかったのは、唇が塞がれたから。
花火の音もシャッターの音も聞こえなかったのは、自分の鼓動がうるさかったから。
瞳に何も映らなかったのは、グッと後頭部を抑えられていたから。
なにも動けなかったのは
彼の唇が何度も啄んできて、
体温も、香りも、かかる息も、髪を滑る手つきも、
どれもが
なにもかもが
優しかったから。
背後のガヤガヤも
周りの人の気配も声も
全部が自分の中から消えた気がした。
ここだけが、切り取られて
たった2人だけの世界になった気がした。
ずっとこのまま時が止まっていてくれたら…
世界が止まっていてくれたら…
このまま…
たった1人の大好きな人と…
夢のような世界で…
悟が切り取ってくれた世界そのままの中で、
元の世界には戻らないで、
傑と…
ずっと
ずっと
永遠に……
不透明な未来のことなど忘れて
きっと永遠に一緒にいられると
そう
信じて。