第10章 dreaminess■
「心を入れ替えて子供のようにならなければ、決して天国に入ることはできない…か…。確かに…子供ほど澄んだ心の人はいないからな……納得だ。
でもレイはきっと天国へ行けるだろうな…」
「お前がいることほどの天国がこいつにあんのか?まぁレイほど心が綺麗な人間はおいらも知らんが」
レイの寝息はとても静かで、そして安らかな寝顔はまるで天使のようだと思った。
夏油は肩肘をついて自身の頭を支えながら、レイとクマの方に向き直った。
「これはキリストの弟子が、天の国で誰がいちばん偉いかと聞いた時の答えらしーぞ。」
「…ふぅん?あとは?」
またペラペラとページを捲る音。
それが止まってしばらくしてからクマは少し声を大きくした。
「おっ!お前ら人間に最も効きそうなのがあったぞ。
マタイによる福音書、第5章!」
「しー…もう少し小さく喋ってくれよクマ助…」
「悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。
あなたを訴えて下着を取ろうとする者には、上着をも取らせなさい。
だれかが、一ミリオン行くように強いるなら、一緒に二ミリオン行きなさい。
求めるものには与えなさい。あなたから借りようとする者に、背を向けてはならない…」
夏油は眉をひそめる。
「…ふー…それはなかなか…普通の人間には難しいな。やられたらやり返すなというのは…。
確かに悪人と同じレベルに堕ちるのは己の清らかさを保てなくなってしまうことだとは思う。でもこれが人間の本質であって本能でもあるんだ。
そしてそこから呪いが生まれるんだよ…」
「棗にはきちんと言って聞かせてるじゃねえか」
「強者は弱者に対して寛容的かつ時に耐え忍んでいかねばならないのさ。それは強者の努め。私たちも含めてね。」
妹には確かに、絶対にやり返すなとキツく言ってある。
それは己を守るためでもあるんだ。
いや、むしろそれ以外には理由などなくてもいい。