第10章 dreaminess■
「コリントの信徒への手紙、13章でこんな一説があるぞ。」
「…ん?」
「愛は寛容であり、愛は情け深い。また、ねたむことをしない。
愛は高ぶらない、誇らない、無作法をしない、自分の利益を求めない、いらだたない、恨みをいだかない。
不義を喜ばないで、真理を喜ぶ。
そして、すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを耐える。」
夏油は短く息を吐き天井を見つめたまま呟く。
「ん。なるほど…。1から10まで全て受け入れる、無償の愛というわけだね。…シンプルなようでなかなか難しいよな、愛って。」
「死ぬまでにそれが得られる人間は一体どれくらいいるんだろうな。きっとほぼいねぇだろう。」
レイが少しだけ唸ったので息を潜めた。
「・・・クマ。君は人間よりも人間のことをよく知っているね。さすが、客観的に見ているだけのことはあるよ」
ペラペラとページを捲る音がする。
そしてまたクマの冷淡な声が聞こえてきた。
「心を入れ替えて子供のようにならなければ、決して天の国に入ることはできない。自分を低くして、子供のようになる人が、天の国でいちばん偉いのだ。
…これはマタイによる福音書18章だ。聞いたことあるか?」
「いや、さすがにないね。聖書は世界で最も数の多いと言われている本だけれど、日本ではそこまで馴染みがないんだ。
けどまぁ、さっきから読んでいる言葉はなかなか興味深いね…」
「だろ。結構おもしれーぞ。
人間と神の本質、酔狂的理念だけじゃねぇもんが道徳化されている」
なかなか難しい発言をするクマに、少しだけ笑う。