第10章 dreaminess■
それは下へと落ちていき、トンビのようにザザザザ〜と人間たちの上を通り抜け、全ての呪霊を消して行った。
人間たちはただ大きな風が突然吹き抜けたとしか感じていないので、皆声を上げてキャラクターの帽子や耳を抑えたり、立ち止まって突風に耐えたりしていた。
「ふぅー。これでよし。」
呪霊はレイの中へと戻って行った。
それを夏油は苦い顔で見つめる。
「… レイ、君は今何体の呪霊操術を使えるんだい?」
「んー、確か今は5、6体…かなぁ」
「っ。もうそんなに…」
「そんなにって、傑なんて何千体も持ってるくせに〜
いつか追い越してやるからね!あ…さすがに無理か、何千体じゃ。はははっ」
満面の笑みで笑うレイを引き寄せて抱き締める。
こんなに細くて小さい体で…
そう思いながら彼女の背中を優しくさする。
「…どうしたの……」
「…いや… レイと共通点を増やせるのは嬉しいけどさ…あまり無理しないでくれ。あれは不味すぎるだろ」
するとレイはくくくっと肩を震わせてギュッと夏油を抱き締め返した。
「確かにあれはなかなか慣れないものだけど…でも傑が今まで感じてきた辛さだと思うと、全然辛くないよ。むしろ愛おしく感じるの。
それにさ、1人より2人で共有したほうが辛さは半減するでしょ。だから傑はもう1人で背負うような感情を持たなくていい。私にも分けてよ」
そう言って今度はレイが夏油の背中を撫でた。
どこまでも優しく、逞しいその大きな背中を。
夏油は見開いていた目をギュッと瞑り、奥歯を噛み締める。
「… レイ……っ…」
耳元にかろうじて届くくらいの、掠れて震えた声。
小さく泣き叫ぶような声にも聞こえた。
僅かに夏油の体も震えているように感じて、レイは更に強く抱きしめ返した。