第9章 swear
夏油は心底申し訳なさそうに部屋のソファーに深く腰掛けため息を吐いて上を見上げている。
クマがようやくバッグから這い出てきた。
「ふーっ、マジ息詰まるぜぇ…」
すると、ノックもなしにガチャっとドアが開いたかと思えば、お茶をお盆に乗せた棗が入ってきた。
また夏油の顔がみるみる不機嫌になる。
「おい、ノックはしろよ。常識だろ」
「だって両手塞がりなんだもん。今だって肘でなんとかドア開けたんだよ」
「あっ、棗ちゃんごめんね!私がやるよ!」
レイが慌てて立ち上がりお盆を受け取ろうとするが、
「ははっ、いーのいーの!座ってて!」
そう言って棗が紅茶を注ぎ始めた。
テーブルに皿を並べ、ドーナツの袋を置く。
箱を取りだし並べられているドーナツを眺めながら言った。
「ね!どれ食べていいの?」
「もちろん棗ちゃんから好きなの取って?」
レイがそう言うと、色とりどりのドーナツに目を輝かせている。
すると横から、ひょいっとピンクのドーナツを掴みあげたのはクマ。
棗が唖然とした表情になり、レイも一瞬のことすぎて固まってしまった。
「ん〜けっこーうまい!やっぱイチゴの味だァ〜」
「ぬいぐるみが…喋ってる…」
そう目を見開いて呟く棗に、慌ててレイが口を開きかけた時、夏油の冷淡な声が降ってきた。
「棗、そいつは特級クラスの呪骸だ。扱いには気をつけろよ」
えっ、と思ってレイが夏油を見ると、夏油は何食わぬ顔で紅茶を啜っている。
「あー…そっか、思い出した。
ラインで言ってたやつね。かわいいなぁ…」
棗はむしゃむしゃドーナツに夢中になっているクマの頭を撫でた。