第9章 swear
高専から本当に近いらしく、30分もしないうちにすぐに着いてしまった。
洋風の佇まいの大きな家。
花壇にはいろんな花や植物、置物が置いてあって、なんだか一気に緊張感が押し寄せてきた。
「ちょちょっと待った!傑っ、1度深呼吸させて!」
「大袈裟だなぁ、お化け屋敷に来たわけじゃないんだから」
すぐさま扉に手をかけていた夏油を即座にレイが止めたので、心底おかしそうに笑ってそう言う。
「傑…おいらも緊張してきた…」
「はぁ?」
初めて知らない人の住む家に入るというのがクマの緊張感をも煽ったのだろうか。
バッグの奥へと頭を引っ込めてしまった。
意外すぎて2人で噴き出していると、突然扉が開いた。
そこに目を見開いて立っているのは、黒髪を高い位置でポニーテールにしたワンピース姿の可愛らしい少女。
「おにーちゃん!!!」
よく見ると、夏油に似ているように思う。
少女はすぐにくるっと後ろを向くと、奥に向かって叫び出した。
「おかーさーん!!お兄ちゃん帰ってきたぁ!!
ちゃーんと彼女も一緒〜!!!」
「おい、棗(なつめ)先に挨拶をしろ」
夏油の冷淡な声で、レイがハッと我に返る。
先に挨拶すべきなのは本来こちらだ。
「こっこんにちは。はじめまして。レイです」
棗は舐めるようにレイの顔を凝視したあと、
夏油とそっくりの笑顔になった。
「はじめましてこんにちは!私は棗って言います!
漢字一文字で棗!よろしく〜♪」
随分と明るい子だと思って、少しだけ肩の荷がおりた。
けれど、まだまだ序章で、ここから先が本番だ。
レイは朝からずっとドキドキしている鼓動を抑えるように胸に手を置いた。