第52章 forgery
「ねぇねぇ、もうこれで薔薇が最後だよ〜」
レイは寂しそうにそう言いながら花びらを湯の中で落としていく。
「あー、意外と99本あっという間だったね?」
五条は茎だけになった薔薇をレイから取ってぼんやり見つめる。
「なんとなく毎日おまじないみたいにしてたから、なくなるとちょっと不安だし寂しい。」
花束を貰ったあの日から、
この薔薇が最後の1本になっても、それが散っても、永遠にこうして幸せを噛み締めていられるようにと願った。
隣にはあなたがいて、クマがいて、ウサがいて。
「そーんな不安に思うことないよ。
僕は何があっても、ずっとこの家族を守っていくから」
ギュッと抱き包んでくる五条の腕の中で、レイは切なげに笑ってクマとウサギののぼせたような愛らしい顔を見つめる。
「私、幸せだなぁ…生まれてきてよかった。」
その言葉を口にできる日が来るなんて
想像さえしていなかったこと。
ずっと昔に、
こんな幸せがいつか突然壊れてしまうんじゃないか、と五条の前で涙を見せたことがあった。
そしてそれは本当にその通りになった。
だからこそ、幸せすぎるとその先が怖くなることもあるのだ。