第52章 forgery
クマは頬杖をついてジッと目の前の男を観察する。
中身の中身、奥底まで探るかのように…
「なぁ…おいらイマイチお前の言ってることわからねえんだが。まぁそもそもお前自体が…って話でもあるが。」
「私は呪霊のいない世界も牧歌的な平和も望んじゃいない。
非術師・術師・呪霊…これらは全て"可能性"なんだ。人間という呪力の形のね。
だがまだまだこんなものではないはずだ、人間の可能性は。」
声色がやけに不気味に静かになる。
何かを深く思い出しているように視線は下にある。
「だがそれでは駄目なんだ…私から生まれるものは、私の可能性の域を出ない。答えはいつだって混沌の中で黒く輝いているものだ。
分かるかい?私が作るべきは、私の手から離れた混沌だったんだ…」
クマはボーッと頬杖をついて微動だにせず聞いていたが、クスクスと可愛らしく笑い始めた。
「どうやらものすごいスケールのことを考えているらしいな。それをおいらが理解できる日が来るとは思えねぇがなんにせよ……」
クマは突然真顔になる。
「…あいつらはそう簡単には殺られねぇからな。
まぁせいぜい頑張れ。」
偽夏油はにっこりと笑って返す。
「私の目的が達成しても、神無月レイの身の安全だけは保証する。君がこちら側についてくれさえすれば彼女には一切手を出さないと誓おう。君にとって彼女の存在がどんなものであるかはこちらも重々承知している。」
「…はぁ……そういうの人質って言うんだが。」
「それは語弊があるよ。それとも彼女よりも五条悟のほうが大切かい?」
「………10秒考えさせてくれ。」
クマは目を瞑って腕を組み、そしてピッタリ10秒後に目を開けてこう言った。
「わかった。"約束"は守れよ。
加茂憲倫…いや……お前は……」
そこで口を噤み、互いの探るような目が交わった。