第52章 forgery
「この先、数十年後とか…
何やってるんだろうね僕ら」
突然ぽつりと言った、五条らしくないその言葉にレイは目を見開く。
「…ん?悟も不安になったー?」
「違うよ。
たださ…細胞は日々生まれ変わるわけじゃん。
今の僕らと、未来の僕らを繋ぐのは記憶だけなんだなぁと思うとさ…なんだか複雑な気分になるんだ」
レイは、五条の薬指の指輪を触りながら目を細めた。
プカプカと浮かぶ薔薇が作る湯の波紋が、
あの頃のこともあの日のことも…
ここに至るまでの全てを映し出しているように見える。
「私は……
忘れたいくらい胸の痛い記憶も、
忘れたくない幸福な想い出も…
全部全部、大事にする。」
今この瞬間に至るまでに、
本当にいろんなことがあった。
愛も絶望も知った。
希望と勇気の大切さも知った。
五条はレイの左手の指輪に指を滑らせながら
その言葉を静かに聞いていた。
「細胞が全部入れ替わってしまう前に、
何度も何度も反芻するよ。
今までの記憶を…想い出を全部。
幸福と反省を噛み締めるんだ。そういう努力をするの。
1つ残らず、絶対に忘れちゃいけないことだから。」
そうやって生きていく。
今の幸福に、心の底から感謝するために。
「うん。僕も。
でも今は…不安は感じないようにしよ」
ね?と優しく笑う五条は、
レイと一緒にクマもウサギも抱き締めた。
心の底から愛してるこの家族と、
永遠の幸せを信じたい。
「だって僕らは、"最強の家族" なんだから。」
その言葉に、4人同時にクスクスと笑みを浮かべた。
それは…
幸福な未来を信じる覚悟。
互いを信じ合う覚悟。
"約束" を守る覚悟。
たとえ何が起きようと…。