第48章 hesitation
「喧嘩するほど仲がいいって言葉があるじゃないか。表向きは喧嘩に見えても、実際は仲がいい証拠らしい。だからね別に、喧嘩をすることが悪いことだとは思わない。ただねぇ、問題は無言の我慢なのさ。」
「……無言の我慢?」
「そ。不平不満があるにも関わらず無言で我慢する。言いたいことがあるにも関わらず何も言わずに耐える。ストレスがあるにも関わらず曖昧に誤魔化して沈黙を貫く。…これは危険極まりないと思わないかい?」
「…確かに……。」
無言の我慢はどんどんストレスが蓄積されていって、息抜きもガス抜きもできない状態なら心の風船は大きくなっていく一方だ。
「一つ一つの不平不満は小さくても、積み重なると大きくなる。どんなに心の広い人間でも器の大きさには限界があるからね。限界に達して大爆発を起こした時が怖いんだよ。あ、レイちゃんは今回ついにそうなったということかな、ハハッ。」
笑っている冥冥を他所に、湯の中で静かに考え込む。
大爆発が起こったら、単なる口喧嘩では終わらず理性と自制心を失った大喧嘩になるかもしれない。
限界に達した時の大喧嘩は悲劇的な結果を迎える可能性もある。
確かに…口喧嘩より無言の我慢のほうが怖い。
時には感情を押し殺すことも大切だけど、どこかのタイミングできちんと伝えた方がいい。
「喧嘩って、立派な愛情表現だとも思うんだ。
でも相手のどんな一面もポジティブに捉え直すことも重要だろう。」
その言葉に目を見開いていると、
冥冥は何食わぬ顔で呟いた。
「愛情の示し方をお互いに間違えてしまったことで起こる喧嘩はボタンの掛け違いのようなものだ。大して問題は無い。怒りが収まったとき、相手に対する愛だけが残るんじゃないかい?」
なんだか酷く自分が幼く思えてきてしまった。
そして自分の感情を整理し始める。
「……はい。その通りです…
愛しさが…大きくなる一方で…
だからこそこうして言い合いになるのかも…
しれなくて……」
「ふふん、君はやはり私を妬かせるねぇ」
「はは…」
やっぱり冥さんに相談してよかった…
レイは今回のことで、やっぱり彼のことが好きなのだとようやく心の底から自覚できた気がした。