第48章 hesitation
一緒にここまで歩いてきたのに…
こうして簡単に躓いてしまった。
自分たちは今、転がり落ちそうになっているんだろうか?
たった1人にしか恋をしてこなかった恋愛童貞だからよくわからない。
「自分もその手に引かれて躓いたり転んだりするんじゃなく、自分がその手を引っ張りあげ、また相手を立たせなくてはならねぇ。」
クマはまだ人生の教訓を力説している。
「置いて行くということも許されない。
転んだ相手の傷は自分が治してやり、そしてまた隣で歩みを進めていく。
…共に生きるということはそういうことだろ。」
「………うん。」
俯いたまま小さく返事をする。
なぜこのクマはいつも、人間の心の隙間にいとも簡単に入り込んでくるのだろう。
しかも、まるで息をするかのようになんの違和感もなく至極冷静に諭すように…
「結局はこの繰り返しなんだ。めんどくせぇことこの上ねぇがこれを乗り越えていかなきゃ幸せなゴールには行き着かない。お前が忘れてほしい過去っていうのも、無理やりにじゃなく、隣にいるお前と共に乗り越えていくべきもんだ。」
「っ……」
息が止まりそうになってしまった。
目を見開いたまま顔を上げると、クマは油っこい口元をそのままに、非常に不機嫌そうな表情でふてぶてしく椅子にのけぞっている。
五条が感極まったように「クマ……」と呟いた瞬間、
「おい、とっととデザート持ってこい。
おいらが食って冷蔵庫整理してやる。感謝しろ。」
「・・・はい。」
お前も大概ムードぶち壊し野郎だぞ。
と言いたくなってしまったが、
やはり何年経っても、ここまで大人になっても、
クマを前にすると自分はまだまだクマの弟子であり、なにもかもが敵わない相手なのだと実感してしまった。