第48章 hesitation
「悟のキスって…すごくない?」
その言葉に目を見開いたまま固まる。
フワッと薔薇の香水のような香りが鼻をくすぐった。
「ふふっ…あれ、私が教えたんだよ?」
「……っ」
鼓動が今までにないくらいに大きく跳ね上がったのがわかった。
頭の中がぐちゃぐちゃで、なんの感情も湧いてこない。
ゆっくりと離れていく女性のその香りは、その容姿と同じくらい妖艶だった。
黒目だけを動かして女性を見ると、彼女は目を細めて魅惑的な笑みを浮かべている。
「レイちゃんって…とってもかわいいね…」
そう言って観察するようにジィっとレイの顔を見たあと、クスッと笑った。
「じゃあねレイちゃん。彼によろしく。」
バーキンのバッグを腕にかけ直し、真っ赤なネイルを施した手をパラパラと降って、くるりと背を向け去っていく。
ソールが赤い、高いヒールのこつこつという音が離れていく。
彼女が完全に視界から消えても、ボーッと突っ立ったまま、しばらく固まっていた。