第7章 rival of life■
「…私…本気で人を殺しそうになったことがある」
五条の眉が僅かに動いた気がしたが、そのまま続ける。
「小学生の頃…虐められてたときに、そのいじめっ子の中心にいる男子を待ち伏せして、家から隠し持ってきた果物ナイフで刺そうとした…」
「…刺さなかったの?」
「うん。刺せなかった。すっごく憎かったのに…できなかった…やっぱ私って度胸ないんだよね…」
レイはそう言って自嘲気味に笑った。
「あのとき…ものすごく手が震えてた。ナイフがガタガタ揺れて、落としそうだった。足も震えてて…立っているのがやっとだった…」
手を見つめて俯くレイの顔に手を伸ばし、前髪を退ける。
潤んだ瞳が見開かれ、五条の瞳を真っ直ぐ捉えた。
「けっこー嫌な記憶思い出させちゃった感じー?」
五条の手が離れていく。
「…別に?そんなことないよ…もっともっと嫌な記憶なんていっぱいあるから。ていうか…それしかなかったし。」
薄ら笑って言うレイに、五条は真顔で言った。
「なぁ、それでその時… レイは泣いたの?」
「…え?」
「涙を流して感情を表に出したのかってこと」
普段の五条からは想像もつかないほど小さく静かな声だ。
レイはなんとなく目を逸らした。
「んー…泣いてないかな。あの頃から私、そうそう涙って出なくなったんだよね。いっぱい辛いこと経験して強くなったんだよ、多分。」