第1章 ruby
「君には、人には無いものがせっかくあるんだ。自分の運命、生き方を発見できたんだよ」
「でも私は…目的も大義もなんにもないよ…今までの人生だってそう。人にはないこんなもののせいで、不幸だった。」
夏油はふっと笑って頭を撫でた。
その手の温もりも、向けられている瞳も暖かく感じる。
「不幸から良きものを生み出そうとしたり、生み出し得る者は賢い人だ。与えられた才能や運命を最もよく活かすということは、人間にとって重要だよ」
「…運命?」
そんなものは深く考えたことがなかった。
それを考えてしまうと決められた人生を肯定せざるを得ない気がして。
「運命は決断の瞬間に形作られる。つまり運命は決断の積み重ねで作られているのさ。」
「じゃあ、望んでいる通りの生き方ができるかな?」
そうでないならば、あの頃みたいに死んでいるも同然だと思うんだ。
隣にあなたがいなければ。
「人生は自分の思い通りにならないって思っている人は、自らが思い通りにならないことを望んでいる人だ。レイは違うだろう?」
その言葉に、レイは大きく頷いた。
「まぁでも…かく言う私も…この選択は正しかったのかって…時々思ってしまうことがあるよ…」
そう言ってレイの耳を見ながらまた顔を歪めた。
レイの道を開いたのは自分だと、責任と戸惑いがあるかのように。
しかしレイは笑顔を向けた。
「危険を冒して前へ進もうとしない人、未知の世界を旅しようとしない人には、人生は、ごくわずかな景色しか見せてくれないんだよ。私はもっと夏油くんと一緒にいろんなものを見たい。この星空以外にも。」
そう言って見上げた先で、1つ流れ星が流れた。