第1章 ruby
「…え、そんなことできない。せっかくもらったのに…」
できるわけがない。
今まさに最高の宝物となったものを、手放せるわけが。
「使ってほしいんだ。頼む。
…じゃないと、あげた意味が無い。」
「なにそれ?意味は大ありだよ!こんなに嬉しくてものすごく感激してるのに!…わからない?」
目を潤ませて必死で語りかけるレイに、夏油は一瞬目を見開いたかと思えば笑い声を上げた。
「はははははは」
「…な、なに?」
「いやごめんごめん、そうだね。じゃあ…いつか使う勇気が来た時でいいよ。まぁ…君の身にそれほどの危険が及ぶのは私も想像したくはないからね…」
心配してくれているのはもちろん嬉しい。
でも絶対にこれを使う日は来ないだろう。
たとえ、自分の命が危うくなっても、これだけはきっと外さない。
「ルビーには、勇気や情熱っていう宝石言葉があるんだ。不完全なレイが、より完璧に近づくためにそれを渡したっていうのもある。」
その言葉にハッとする。
確かに私にはいつも、勇気と情熱が足りないように思う。
それなりに強くはなったけど、まだまだ臆病で自分に自信が無いし、何を目指してどこまで行けばいいのか、立派な大義なんかもなくて情熱がないと自分でも思っている。
それを、夏油くんはきちんとわかってくれていたんだな。
ちゃんと、いつも、見ていてくれていたんだ。
私を連れてきてくれたあの日から、ずっと…
そう思った途端、目頭が熱くなった。