第1章 ruby
「…選んだのは私。私が私でいられるのは…夏油くんのおかげ。夏油くんがいなかったら、私は私でなくなってしまう…」
"行こう。君が君でいられる場所へ"
あの時の言葉がいつも頭の片隅にある。
そして、あなたの存在も。
涙声で俯くレイの顎を掬って夏油は目線を合わせた。
「ふっ…そんな顔をするなよ」
「…な、なんで?」
そんなことを言われても、自分がどんな顔をしているのか想像つかない。
ただただ、胸いっぱいなこの複雑な気持ちしか…
「触れたくなるんだよ…」
「…触れてよ……」
そう呟いた刹那、吸い寄せられるように唇が重なった。
目を閉じると、柔らかく優しいその感触が、全身で感じられるくらいにダイレクトに脳へと伝わった。
少し唇が離れたかと思えば、また啄むような優しい口付けが何度か降り注ぎ、夏油の微かな息遣いが鼓膜を揺らした。
ゆっくりと唇が離れ、互いの照れたような瞳が交わり、同時に笑った。
「これは…夏油くんが持っていて。」
そう言って、先程ルビーの代わりに外した稲妻型のピアスを握らせる。
すると夏油は頷いてから大事そうにポケットへしまった。
「ねぇ…最初の質問には答えてくれないの?」
"どうしてそんなに私に優しくしてくれるの?"
その質問の回答をまだ聞いていない。
夏油はフフっと笑ってから静かに言った。
「もう答えたつもりなんだが。」
「…そうだったっけ?」
あれ?と言った顔で黒目が上に向き始めたレイの頭を掴み、夏油は自分へ向かせた。
「それがわざとなら、なかなかにSだな君は。
それか…行動で示すより言葉のほうがいいのかな。」
僅かに笑みを浮かべたその玲瓏な瞳にレイの鼓動がドクンと波打つ。
「…好きだ。」
「・・・」
目を見開いたまま固まるレイの唇をもう一度奪った後、夏油は目を逸らして呟いた。
「これを言うのは最初で最後だからな…こう見えて結構恥ずかしがりなんだよ、…おい笑うな」
嬉しすぎて、幸せすぎて、笑ってしまった。
「はは…ごめんごめん…私も、好き。
この世で1番。」
幸せだ。
今、この瞬間に死ねたら、
これ以上幸福な最期はないと思えるくらいに。