第43章 MY ALL
「人の痛みがわかる大人に預けたいからね。
七海みたいに…。」
「そんな甘ったるいことを言うためにわざわざここまで?」
フッと笑って五条さんはグラスの片方を私の方へ寄せた。
シンデレラ…
甘く酸っぱい黄金のカクテル。
青春のくすぐったさを詰め込んだようなそれを暫し黙って見つめてから口をつけた。
「…甘っ」
「旨いだろ?」
シンデレラなんてネーミングセンス…
どうかしている。
最後には正しき結末を迎える、ロマンチシズム溢れるお伽噺のように、そのカクテルは甘い。
「あなたって…本当に大丈夫なんですか、色んな意味で…」
「僕はさ…
"何があっても負けない"よ。親友からそういう呪いをかけられた。甘ったるい幻想に取り憑かれるほどクレイジーじゃない。ただ、甘ったるいものを常に舌で味わってるくらいなら許されるだろ」
数多、渦巻く辛酸と、舌に残るような甘さを抱いて
私はそのときの五条さんの寂寥たる表情を見ていられるほど昂然な人間ではなかった。