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月の虜

第1章 再会ー石切丸ー (裏)


『おはよう、石切丸。』

「やあ、おはよう。」

身支度を整えた主が、祓え殿へと朝の祈祷にやってきた。
真面目な彼女はこうして毎朝、私の祈祷に付き合ってくれる。

「はい、今日の祈祷は終わったよ。」

『ありがとうございました。
今日も穏やかに過ごせます。』

「それは良かった。」

乱「主さーん!おはようございます!」

『おはよう、乱。』

そして、祈祷が終わると他の男士がやってきて連れて行ってしまう。
本当に、我々に好かれている主だ。
嬉しいと思う反面、もう少し…いや、もっと独占してしまいたい。

私は…
始めから、主であるが特別だった。
他の男士以上に。

余程の事情がない限り、我々は刀として使われていた時の記憶がある。
それは、私も例外ではなく。
直前の主まで、しっかり覚えている。

神社に納められていた私の世話をしてくれていた巫女。
温かく優しく、強い霊力の持ち主だった。
毎日触れてくれて、共に祈祷したり、奉納の舞を見せてくれた。

だが…

『…お別れなんだ、石切丸。』

突然の別れ。
彼女は神社を去った。
何故なのか分からなかったが…
今なら、わかる。

だって、目の前に居るからね。

は、審神者に選ばれたんだ。
そして、私を顕現してくれた。
主がだと、すぐに分かったよ。
いつも触れてくれた温かさと、包み込むような霊力。
変わらない、穏やかな声。

『ようこそ、石切丸さま。』

あの頃より大人びた、美しい。
だが、昔の事には触れない。
だから、私からも言えずに居る。
第一、なんて言えばいい?

ー私を覚えているか?ー

なんて、問えるわけもない。
忘れていたら…辛すぎる。

長谷部「主!また、お一人でフラフラと!」

『ちょっと、長谷部。
敷地内に居るじゃない。心配しすぎ。』

それに、私はが審神者になってだいぶ経ってから顕現された。
すでに、仲の良い男士達が居て…
情けない事に、怖気付いて聞けないでいる。

しかも、彼女の初期刀は加州。
愛されたいという想いの強い彼が、いつも側に居る。

は贔屓などしないが、彼の望むようにさせているし。
近侍は長谷部さんか張り切っていて。

二人きりになれるのは、朝の祈祷のわずかな時間だけ。



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