第16章 月食

「じゃ、村雲。」

村雲「俺でいいの？二束三文なのに…。」

「逆に、村雲じゃなくて良いの？めっちゃ、視線で訴えてたじゃない。」

村雲「う…。」

「どうする？豊前に頼んだ方がいい？」

村雲「あーもうっ！後悔しても遅いからねっ！！」

言葉の勢いに乗って私の腕を掴むと、二の腕の内側に口づけた。

えっ！？そこなの？？

村雲「はい、出来た！」

「なんでキレ気味なのよ。」

村雲「照れてんの！言わせないでよ。」

「ごめん…」

頬が髪色と同じ色になってる。
自虐的なことばかり言うけど、私は村雲の良いところをいっぱい知ってるよ？
だから、君を選んだんだ。

ー俺で良かったって思わせるからー



「おいで！村雲江！！」

そう叫ぶと、二の腕に彼の刀紋が光って浮かび上がり、爆ぜるような桜の花びらと共に村雲が現れた。

村雲「がるるるるるる…。」

私の腕に絡みつき、敵を睨みつける。

村雲「怪我は？」

「少しだけ。」

村雲「許さない…。」

彼の羽織っていた上着を私の頭からかぶせると、村雲の気配が離れた。

村雲「死ねっ！！」

…え！？今の、村雲の声？
低くてドスの効いたそれは、村雲の怒りが伝わってくるようだ。
…私が怪我したから、怒ってくれてるの？

村雲「おらぁ！！」

普段のすぐお腹が痛くなる村雲からは想像できないほどの勇ましさ。
忘れがちだが、彼だって剣を握って戦っているのだ。

村雲「はぁ…はぁ…はぁ…。」

瞬く間に敵を殲滅した村雲は、間違いなく男士だった。


．