第9章 花散し
篝火に四方を照らされて、
舞台の下に集まる人はそれまで以上に多かった。
ぱちぱちと弾ける音が境内が醸し出す静けさと相まって神々しく響く。
静かにざわめく観衆の中、神が宿る一凛の華となる。
「母上!あの方は天女様でしょうか…」
遅い時間に見合わぬ子どもが声が華を揺らす。
『乙姫様みたいな衣装、いつ見てもとっても素敵だね?』
あぁ…舞いたい…
溢れる気持ちを、この姿をどこかで見てくださるのならば、
あなたが『初めて心を動かした』と言ってくださった
この場所と
この舞で…
パチンと一際大きく松明が弾く
雅楽
篠笛と共に太鼓の射貫く音が静寂を伐る。
鈴の音を鳴らし、金の扇子と榊を手に持ちて、菖蒲はゆっくりと舞台の中央へ進み出た。
地に根を張るように重厚な足取りは、地を這い雪をも吹雪かす風のように優雅だった。
神聖で華美な衣装の重さなど微塵も感じさせない。
その場の空気をも変えてしまうほどの風を産む舞
繊細に舞う雪のように白く伸びた腕と手、指先
風を呼び、神を招く厳かな動き
静と動の緩急が境内の空気を支配した。
扇子が描く弧は、満月を映す水鏡を描き、
その光沢は篝火を反射して、
それは、天の川が舞台に降り注いだかのようだった。
舞はやがて、激しさを増す。
定められた型ではないその舞は、
彼女の心の奥底から迸(ほとばし)る叫びそのもの。
だが、祈りとして神に捧ぐにこれ以上にはないほど。
想い出も、思い出も、全て、生き様も込めてこの身心全て捧げてもいい。
いっそのこと、舞の果てに天雷にでも打たれてもいい。
その方がわたしではできないほどに神楽舞踊は神格化して栄えるかもしれない。
そうあって欲しい。
未来のためにも…
そう思ってからは記憶がない。
天に召され憑依したように一心不乱に舞っていた。