第5章 花酔ひ
腰を打ち付けられて、奥の口まで貫かれる。絶叫とともに感電したんじゃないかと思うほど脳を甘ったるい衝撃が支配した。
早くなる腰の打ち付けに、手の甲を噛むと
「人間の傷は戻らないよ」
と外されて、見つめ合うように向き合わされる。
「声を聴かせて...。外に音は、漏れないから....」
「可愛い顔を見せておくれ....」
無意識に流れる涙を、節張った親指が優しくなでる。唇が優しく拭う。
「菖蒲.....っ.....菖蒲...」
余裕がなくなって何度も囁かれる名前。
言葉にならぬ声の代わりに、支えている両腕にきつく縋りついた。
未来なんてどうなるか分からない。けど、許されない想いでも、今だけ傍にいて一つになって愛し合えるこの時間を、同じ気持ちでいてくれるのなら、一瞬でもその奇跡をお互いに残せたら.....
それが目に見て分かればどれほど幸福だろう。
一生癒えぬ副作用のある毒でもいい。甘い花酔いがただの夢ではないと、あなたに止まった蝶として刻んで。
「___________」
最高潮の絶頂を迎えるとともに、最奥に叩き付けられた男根を離さぬように強く締め付ける。
同時にどくどくと吐き出された熱い麻薬が注がれた。
自身の身体を支えていた腕がゆっくりと菖蒲を抱いて、二人しかいない静けさに互いの息遣いと重なり合う肌の水分と暖かさを確かめ合った。
「菖蒲」
「ん....」
「...........明日もここに居ておくれ。」
余韻に浸る目がぱちりと開いた。相手が人喰い鬼である以上、夜に人間を隣に置くなど考えたことも無い。
彼のいう"救済"という対象である教徒でもないのにと考えをぐるぐる巡らせると、それを感じ取ったのか
「まさか、菖蒲ちゃん、食べられると思ってないかい?別の意味では食べ尽くすけど。」
と、くすくす笑いながら頭を撫でてくる。
「だって、夜は.....」
「菖蒲ちゃんがいる時は、そんな事しないよ。
それに、菖蒲ちゃんの事本当に食べてしまったら、もうこうして会ってお話することも肌も重ねることも出来ない。」
そんな会話を交わしては、やはり人外で、人を食べる別の生き物でもあることを再認識する。
でもそれ以上に、この男への愛は本物であることも間違いない己の心事実なのだ。