第5章 花酔ひ
翌日から2日ほどの休日。
稽古を体を慣らすほどに済ませると
飛び出すように家を出た。
街を抜けて、ひっそりとした路地裏を歩む足はいつもより早く思った。
寺院が見えると、信者が数人寺院の周りを掃除している姿を見かけた。
「姫様。お帰りなさいませ。」
何度か顔を合わせたことがある女性がわたしに向かって頭を垂れる。
「姫様?」
「何をおっしゃいます。教祖様はいつも、あなたがいらっしゃる日はとてもお優しい顔をなさるのです。
もうそれは、わかりやすいほどに。
そして、今日の御説法もとても慈愛に満ちておりまして、私どもは嬉しいのでございます。
教祖様が一心に思いを寄せられるあなたは、私共にしましては、女神の化身のように思うのです。」
女性と話していると、他の信者の方々が集まってこられて同じように仰った。
どうしたものかと戸惑いながら、視線は出迎えてくれるであろう松乃さんの姿を探した。
遅れて駆け足で駆けてきた松乃さんに大きく手を振る。
「さぁ、皆さん。掃除がまだ終わっていませんよ。それに、教祖様が首を長くして待っていらっしゃるのです。
霧滝さんをあまり困らせてはいけませんよ。」
「松乃さま。申し訳ございません。
みなさん、行きましょう 。
菖蒲さん、失礼します。」
恭しく頭を下げて、女性は背を向けて去っていった。
「さぁ、参りましょう。」
手を引かれては、いつものように幹部棟の門をくぐって彼が待つ部屋に通された。
「今日は器楽隊はおりません。何やら面白いものを入手されたようですよ。」
そう言って、舞踊の部屋にわたしを残して、松乃さんは礼儀正しくにこやかに戸を閉めていった。
しんと静まり返った部屋に大きな人影が座り込んでいる。
「童磨さん。」
ふっとこちらを振り返った時に、少し空気が明るく弾けるようなそんな匂いがした。