第4章 泥から咲いた蓮のように
恋愛小説のベタな言葉や扱いをされても
どうしようもなく心臓が煩くなるの。
当事者となれば、どんな甘ったるい言葉でも
甘美に心を潤して、ドロドロになるまで愛に浸りたくなる。
何よりも生まれたての感情に打ち震える姿も
悦びで満ちているのも
穢れがなくて美しい。
感情に泥濡れになってきた心には眩しくて
無垢な愛を向けられた喜びに浸りながら
ただただ、強く抱きしめられたまま
腕をまわしてあなたの早くなった鼓動を聞いてた。
強い春風が、暖かな季節の花麗しい香りを運んで包んで
このまま誰も邪魔しないで欲しいとさえ願ってしまった。
旅館に送られながら
時が過ぎるのを虚しく思う。
「またね。」
全てを奪って、従順に甘やかされるような口づけをのこして
わたしを置いて去っていく。
久しぶりの休日に、また会う約束をしたのに
離れていく後ろ姿が凄く遠くに感じたのは
気のせいであって欲しいと
息すらできなくなる苦しみに
そこに立っていられず、へたり込んでしまった。
これは許された恋ではない。
きっと、教団の教祖を務める彼にもそれは充分解りきったこと。
抗えない想いに比例して、胸につかえる苦しみが
この気持ちの恐ろしさを感じさせてくる。
体は心に従順で、理性が強いほど苦しい。
長らく窓辺から離れられず、遠くに輝く月が朝日に出会うまで、彼が去った方角を眺めていた。