第4章 泥から咲いた蓮のように
それから数週間、寺院に寄って依頼先に出向くような日々が続いた。
梅の花が見頃になり、花見のためにも派遣させるようになる。
正月と花の咲く春も舞巫女の繁盛期。
夜だけでは仕事が追い付かない事も増えて、慌ただしい日々を送っていた。
今日は師範のところに出向く日。
「あら、菖蒲ちゃん、良く来てくれたわね。最近は一段と評判が上がったと思ったら、何だか見違えたわ。」
師範は、いつもよりにこやかに出迎えてくれて機嫌がすこぶる良さそうだ。
「どういうことでしょうか?」
評判がいいとは、肌身で実感している。
でも、見違えたってどういうことだろう?
「何て言うのかしらね?
こう、表情が明るくなったというか、雰囲気から明るくなったんだもの。
最近いいことあったの?」
「えぇ。素敵な友達ができまして、よくお邪魔させていただいています。」
師範は目を細めてうんうんと頷きながら聞いていた。
「もしかして、正月開けにあなたを助けてくださった男性?」
先日の宿の女将さんから聞いたのだろう。あんなことがあったのだから、話がいってて当然だろうけど。
「その方もですが、その方の繋がりでもう一人よくお話が合う方がおりまして、最近は楽しくさせていただいております。」
「そうですか…。どんな出会いも芸の肥やしとなります。良い出会いでも悪い出会いでも感情が動くのですから。
良いお友だちなら尚良いことでしょう。」
まだ、童磨さんの素性が知れないから、その答えに甘えよう。
本当にあの場所はわたしをわたしとして見てくださる人たちだから、心地よいのは間違いない。
「はい。大切にします。」
「あなたはもう師範でもあり、立派な大人です。友人も恋人も口煩く言うつもりはありません。
だけど、それゆえに回りが見えなくなることがないよう、気を付けなさい。
私はあなたの親代わりとしてあなたを育ててきました。
あなたの味方だから、いつでも相談してちょうだい。」
他意もなく、世間で大人といわれる立場と師範という称号を持つわたしに対してそう言っているようだった。
「はい。気を付けます。」
頭を下げて返事をすると、暖かい眼差しが向けられて、心なしか少し後ろめたさをおぼえた。
「さぁ。始めましょうか。」