第3章 風変わりな思考
楽しい時間はあっという間に過ぎるというモノで、霧滝様をお見送りできるのもここまでとなってしまいました。
彼女は街の人込みを背に私に向きかえり、深々と頭を下げてにこやかにほほ笑まれるのです。
「ここまでお見送りしていただきましてありがとうございます。
今度は松乃さんも一緒に舞の宴を楽しんでいただけると嬉しゅうございます。」
「はい。是非とも....。」
「お約束ですよ。
今日は楽しい時間でございました。本当にありがとうございました。」
そう言って、袖元を抑えて小さく手を振る様子がとても愛らしく、私も同じように手を振ってお別れしました。
ずっと御背中を眼で追って彼女が無事にお仕事に行かれるのを見届け、私も寺院に戻りました。
戻った時に教祖様は、窓辺に腰かけて切なげに空の茜を眺めておいででした。
「ご苦労だったね。
何事もないようで安心した。礼を言うぞ。松乃。」
「私もあの娘が大好きにございます。娘が出来たように嬉しゅうございます。」
教祖様はうんうんと優しく微笑まれ、扇でご自分を扇いでおいででした。
「しばらくはあの子の送迎は松乃にお願いするよ。何やら、菖蒲に一波乱起きそうな気がするんだ.....。
あの子の周りには憎しみと憎悪の眼が纏わりついているように感じられる。」
「教祖様の大切な”ご友人”でございます。何があってもお守りします。」
扇いでいた扇の手を止めパチンと音を立てて閉じ、何やら考えておいでの様子。
教祖様の御様子と言葉に少しだけ胸騒ぎを覚えたのでした。