第14章 花爛漫
話し合いは夕刻に及び、再興計画の概要と、快気祝いの宴の最終確認をもって終了した。
宴は、五日後の夜。実田が所有する敷地の周囲を桜の木で囲んだ別邸で行われる。
その夜は、気候が良ければ桜は満開となるはずで、菖蒲が、完全に回復した姿を関係者にお披露目するための、華やかな舞台になるであろう。
「それはそれは…。さぞかし菖蒲の復活に相応しい宴になるだろうね…」
「実田様。何から何まで本当にありがとうございます」
「いいんだよ。菖蒲ちゃんは、娘のように思ってきたからね」
菖蒲はそれから、宴に向けて、扇子を広げて舞い踊る。
日が高くなる刻限、本殿の庭。
童磨は、光の当たらないそこから、庭に舞う蝶を眺めるように、悠然とその様子を見守った。
「ねぇ、松乃…」
「はい」
「あの子は、松乃のように俺の救済に耐えれるかな?」
後ろに控えて見守る松乃に問うは、己の鬼として人の命を奪い続ける宿命、そして、教祖としての信者の救済としてその道を選んだ自身の立場に対してのこと。
『救済』を知り受け入れたものは過去にもいた。
しかし、救済を受け入れても
受け入れ許容し続けることは、人の倫理の外にある。
故に耐えかねて、殺してほしいと嘆願するものも多かった。
『願わくは、信徒でもない、『初めて鮮烈な感情を抱いた女』である菖蒲をずっと生かしておきたい』
松乃には、そういう意図が含まれたように聞こえた
「……恐らくは」
その言葉は、かつて、自分に対しては一度も懸念する様子を見なかったと松乃は心の中で思う。
______それほどまでに、菖蒲様のことを…。
松乃の目の前で、菖蒲が舞い踊るのを楽しそうに見ている主の幸せが、この先も安定的に続くことをただ祈らざるを得なかった。
菖蒲と出会って間もないころ、直接語り合った童磨へ対しての考え方も何もかも、今も何一つ変わりがないことを心の中で何度も願う。
恐らくは、その身に聞こえているかもしれない、教祖の主人の声を無視することが出来ない立場。
綱渡りの安寧に胸が締め付けられる思いがした。