第13章 花戯れ
脱力してのしかかる重さも
ただ、強く包まれているような安らぎと幸福感に涙が溢れる。
透明でもない。
ただ真っ白で色を弾くような空っぽに
鮮やかな色の花が大きく咲いたように美しい。
それが、わたし全てにぶつけられて花開いたというのが、
ただの繰り返される、単調で長い時間に薄れることもない鮮明な悦びの衝撃をもたらす。
狂おしくとも暖かくて
なのに
後ろの下を見てしまえば底知れない地獄がある。
『もっと、堕ちてみたいな…。ねぇ、同じだろう?』
何を思って堕ちると言ったのかは違ってもいい。
ただ、死んだ先の行先は違いたくない。
大きいあなたは、抱き込めるようにして離してくれない。
嬉しいなんて思ってごめんなさい。
ただ、逢えない間が身を焼くほど辛い思いは恐らく
あなたはあなたなりに同じで…
『おかえり…。迎えに着ちゃった』
『ねぇ、帰ってきたら、なんて言うんだっけ?』
薄い色素、見た目よりもしっかりした髪質が指の間を通る。
その感触を確かめるように撫でた。
目を閉じると、また一筋涙が落ちていく。
「ねぇ、童磨さん…」
「ん?」
気だるさを含んだ甘い声と息。
覗き込む瞳はいつものように見開いてはいても
どこか優しい。
「ただいま…」
少し驚いた顔をして、すぐに目を細めて
暖かくなる眼差しと頬に触れる手
「…おかえり、菖蒲ちゃん」
鼓膜を揺らすその声は、胸を締め付けるほどに優しくて
この人が万物を凍らせる力を持つことが信じられないほどに、満ち足りた暖かさを感じていた。