第13章 花戯れ
猟奇的に見開かれた瞳にはくっきりと序列の刻みが浮き出して
執拗に突きあげられる衝動と合わさり
陶酔と戦慄の甘い罠にズルズルと引き堕とされる。
目が離せない、
目の前でわたしを浸食するのは、狂愛に溺れて乱れる蠱毒的(こどくてき)な獣。
生に抗うような律動に意識をもっていかれないように
その腕をしっかりと絡ませた。
「激しっ…!ぁぁっ……!ダメ!!壊れちゃっ……あ”ぁっ!」
「俺をめちゃくちゃにするからだよ?
ほら…歯止め利かないよ…?仕方ないよね?仕方ないよね?!」
「ごめんなさ…っ!」
言わせたいわけじゃない言葉を口で封じる。
どちらのモノかわからない唾液が菖蒲の頬へと流れた。
過去の自分ならば、ここまで翻弄されている俺を嘲笑するだろうな。
「お前は人の倍以上姿かたちを変えず”教祖”として生きてきて『憐れな人間たち』を救ってきたのだろう?
一人の人間にここまで乱されて、どうしてしまったんだい?」
と。
あぁ、でも、止める気すらしないよ。
人間が言う、ありもしない『地獄』とやらに堕とされても。
愉しいね。
不思議だね。
堕ちれば堕ちるほどに、もっと深みに嵌ることしかできなくなる。
「もっと、堕ちてみたいな…。ねぇ、同じだろう?」
人の頃も鬼になってからも
動いたことの無い心を動かし搔き乱す唯一の存在。
返ってこない言葉の代わりに、眩しく艶のある笑みが余計に胸をざわつかせる。
いやいやと快楽に抵抗する様が、花開く前の蕾の抗いのようで、それを眺めていると自ずと欲を打ち付けるのが速く強くなる。
「ねぇ、童磨さ…っ…ぁ…!
一緒がいい…一緒が…」
淫靡に懇願する甘い声。
もう一度その腕に蔓のように巻き取られて引き寄せられるのを受け入れて、甘い蜜に引き込まれるように壊れないように抱きしめた。
「いいよ…」
肌がぶつかる音も、蜜が粟立つ音も
甘く激しい喘ぐ声も、頸に巻き付く腕に込められた力も
全部全部情欲としてくべられて、
愛すだけ愛して、ぐちゃぐちゃに溶けるほど熱くなる。
「菖蒲…」
「菖蒲……!」
「___________!!」
離れている間も
君の苦境を知って苛立った時も
病に抗い生きようとする間も
菖蒲に対して抑制していた愛の全てをその躰に注ぎ込んだ。