第13章 花戯れ
「菖蒲ちゃん。あなたの命は、皆の想いの上にあります。改めて聞きますが、あなたは童磨様の庇護下で、神楽舞踊を続ける、という道を貫くのですね?」
菖蒲は静代の前に手をつき、頭を下げて、彼女の弟子として、正直な願いと想いを伝えた。
「はい。まことに手前勝手な願望ではありますが、
神楽舞踊の再構築のお手伝いと共に、舞い続けていくことも、今後、童磨様のお傍におりますこともお許し願いたく存じております」
その言葉に、静代は安堵と複雑な感情を滲ませ、実田は「よし」と静かに頷いた。
一方、まるで、嫁ぐ許しを母親に乞うように頭を下げる菖蒲に喜々とした感情に満たされるのを感じた童磨は、それを押し殺しながらも、彼女との共生を願い静代に念を押すように語り掛ける。
「以前、静代殿に言ったように、俺は『本来』の姿の俺としてではなく『人』として菖蒲を大切にしていくよ。
それに、神仏のために舞う神楽舞踊は、俺が師となる教団とは相容れないだろう。
だからこそ、彼女を『教徒』ではなく『一人の可愛い人』として、その微笑みを奪うようなことはしないと静代殿に誓うよ」
静代はその言葉に、目の前にいる者が噂に聞いていた『人喰らう鬼』と別物であり、本心からの菖蒲を慕う故の言葉であると理解した。
「以前、聞かれた問いに答えましたように、
菖蒲の意思で、あなた様の下に居たいというならば、それを支えたいとの気持ちは変わっておりません」
そして、再び菖蒲に向き直り師としての言葉をかけた。
「菖蒲は、華雅流の軸となって、心身を削って貢献していただきましたね。今後は、残った者たちで神楽舞踊を再構築する際には『元家元』として、沢山のご助言をいただきたいと思っています」
「それは事実上の隠居した身として、新しい家元と新しい神楽舞踊を構築するためのお手伝いをさせていただけるという認識でよろしいのでしょうか」
静代は、静かに笑みを浮かべて頷いた。
小さな疎外感とそれを受け入れるほどの安堵が菖蒲の心を包む。
「畏まりました。精一杯尽くしていく所存でございます」
「まぁ、待たれよ。
華雅流再興のための活動は、菖蒲ちゃんの完治が優先だ。
療養中の活動場所は、俺の自室、つまりここを拠点とさせてもらおう」