第13章 花戯れ
桜の花が蕾を膨らませる頃、菖蒲は、日常生活を一人でこなせるほどに回復していた。
「そろそろ頃合いかな…」とのことで、寺院本殿の一室にて
華雅流の未来を話し合うための席が設けられる。
席に着いたのは、童磨、菖蒲、静代、実田の四人。
松乃が給仕として傍に控えていた。
静代は、以前の憔悴した様子から一転し、着物も表情も引き締まり、華雅流師範代としての毅然とした雰囲気を取り戻していた。彼女は、まず深々と童磨に頭を下げた。
「童磨様。この度は、娘を……菖蒲を救い、
そしてあの忌々しい因縁に片をつけてくださり、心より感謝申し上げます。
今後、極楽教に対して、いかようにも誠意を尽くさせていただきます」
童磨は、静代の真っすぐな眼差しを観察するようにじっと見た後、満足気に、そして楽しそうに微笑んだ。
「静代殿、硬いことは抜きでいいよ。
君が先日俺に見せてくれた菖蒲ちゃんへの愛と覚悟には感銘を受けている。
俺が望むのは、菖蒲ちゃんの笑顔のみ。
全ては、彼女の命を救うため、そして、彼女の情熱や志、信念を守るために俺がやっただけの事」
そう言いながら、隣に座る菖蒲の背にそっと手を回し、彼女に向けて微笑んでみせた。
実田は、その様子に隠された独占的意図を静かに見つめ、話し合いを実務的な方向へ話を進める。
「では、まず現状の確認を。
鶴之丞は、華雅流の一切の権限と家屋、そして資金を持っておりましたが、彼の死、屋敷の損壊により、それらは宙に浮いた状態です。
華雅流を再興させるには、新たな場所と資金が必要だ。
この件から、菖蒲ちゃんに話す意図はわかってもらえるかね?」
「はい。実田様。お気遣い感謝申し上げます」
静代は、力強く頷いた。
「資金については、幸い、私や実田様を通じて、高弟たちが細々と手を尽くし、最低限の再興費用を確保しています。
場所については、以前の屋敷を取り戻すのは不可能。よって、新しく拠点となりうる場を、皆と話し合い、選出した新しい長の屋敷としようという話になっております」
静代は、改めて菖蒲に向き合った。その瞳には、母性と師としての期待が込められている。